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顔面近距離の緊迫した事態はひとまず回避された。
とりあえず、私は飛び起きて、すぐに着替えをした。
彼女が戻ってくるまえにそれを済ませなければならない。
これはもう強迫観念というべきものだ。
パジャマを脱いで、たちまちズボンを穿き、シャツも着た。
一息入れてから、靴下を履いた。
私は立ったまま、片足を上げて靴下を履くことにしている。
それができなくなったときには老化が進んでいる証拠だ、といったことをテレビの番組でずいぶん昔に見たからだ。
しかし、今はそんなことを悠長に回顧している場合ではない。
良い匂いがした。
コーヒーではない。
そうか、朝食を彼女が作っているのだ、と思い出す。
困ったな。
今のうちにトイレに行こうか。
それは食事を作っている彼女に対して失礼な行為に当たらないだろうか。
どうして、朝からこんなことで悩まなくてはならないのだ。
気を遣いすぎるぞ自分は、などとも思ったものの、しかし、こういう性分なのだからしかたがないではないか、という反論も頭の隅から聞こえるのである。
次に、布団を畳んだ。
パジャマも畳んで、その上に置いた。
こんなこと、一人のときにはしたことがない。
布団を畳む意味を見出したのはこれが初めてだ。
場所をあけるためならば、ここではその必要がない。
場所は有り余るほどある。
もの凄く広い部屋に私は住んでいるのだから、いくら広いといっても、私以外の人間が同じ部屋の中にいる、という状況は落ち着かないものである。
過去に一度、二人の女性と同居をしたことがある。
この二人はともに三十代の、私よりずっと歳上の女性であったし、それに同時に二人だった。
一方の私は、一人だ。
このようにバランスが取れていない条件では、それほど緊迫した状況には陥らない。
不思議である。
やはり緊張とは均衡の下に生じるものらしい。
今回の彼女は、私と同じ年代であるし、しかも一人だ。
一対一である。
そして、さらに、もっと、どうしようもなく、すこぶる困ったことに、彼女が可愛いのだ。
いったい、どうしてこんなことに……。
ああ、どうしたものか。
否、可愛いという評価は変だぞ。
私は他人のことを可愛いなどと感じることは滅多にない。
世の中には若い女性を可愛いと表現する男性が沢山いるが、あれは私には理解できない。
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